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司法への信頼は…農水省の使命とは… 諫早湾干拓事業裁判「事実上の決着」で問題は解決したのか?

2023/03/06 (月) 18:40

排水門を開けるかどうかを長年争ってきた諫早湾干拓事業をめぐる裁判。3月1日、最高裁の決定により「開けない」方向で司法判断が統一され事実上の決着となりました。一方で、問題が解決したとは到底言えず今後の行方も見通せないままです。

【野村哲郎農水大臣】
「いや~よかった。一言です。訴訟だけはもうおやめいただきたいなと」

【リポーター】
「293枚の巨大な鉄の板が次々と落とされ、海を閉め切っていきます」

1997年、いわゆるギロチンで閉め切られた諫早湾干拓事業。その後、有明海ではタイラギなど二枚貝の不漁やノリの色落ちといった異変が続きます。
こうした中、2002年有明海沿岸の漁業者たちは開門を求めて国を提訴。そして…

「開門が認められました!勝訴です」

2008年、佐賀地裁は漁業被害と干拓事業との因果関係を認め、開門を国に命じました。続く2審の福岡高裁でも漁業者の訴えが認められ、国は上告を断念、“開門”の判決が確定したのです。

【漁業者・平方宣清原告団長】
「ちょっといま睡眠不足と興奮で涙が出てちょっと恥ずかしいんですけど。それくらい興奮しました」

一方、国は開門命令に従わず2011年には、今度は干拓地の営農者たちが“開門の差し止め”を求めて長崎地裁に提訴。

結果は“開門差し止め”。開門と非開門、相反する司法判断により長年の法廷闘争はさらに混迷を極めていきました。

【漁業者側・馬奈木昭雄弁護団長】
「司法判断を同じ裁判所が破っていい、履行しなくていいという判断が平然と下される」

その後、漁業者の思いとは裏腹に司法の流れは“開けない”方向に傾いていきます。もともとは開門が前提で“国はいつ開けるのか”という、開門の時期が争点だった裁判でさえも最終的には「開けない」判断に。

一度は勝ち取った開門への道。ただ、確定判決にも関わらず、国が従うことはありませんでした。それでも唯一の開門の判断は不振にあえぐ漁業者たちの“頼みの綱”だったのです。

【野村哲郎農水大臣】
「いや~よかった。一言です。訴訟だけはもうおやめいただきたいなと」

3月1日、最高裁の決定は国に開門を命じた確定判決を無効にするものでした。相反していた司法判断は「開けない」方向で統一され、長年の法廷闘争は事実上、決着しました。

【漁業者・平方宣清原告団長】
「本当に残念としか言いようがないですね。私たちの気持ちをしっかりとまた国に伝えて開門につなげていかなければいけないと思っています」

【野村哲郎農水大臣】
「今回判決(決定)が出た以上はほとんどもう最後的な感覚でやらないともう(堤防閉め切りから)26年経っているわけですから」

最高裁決定のあと、“話し合い”による解決を急ぐ考えを示した野村農水大臣。また、漁業者側も「開門と開門調査は不可欠」とした上で、「紛争解決のための“話し合い”の実現を広く呼びかける」とする声明を出しました。

【キャスター】
ここからは中溝記者の解説です。最高裁決定のあと、お互い話し合いを求め紛争解決に向けて動くように見えますが、一筋縄ではいかないようですね。

【中溝記者】
その通りです。まずは今回の決定のあと野村農水大臣が出した談話をご覧ください。
「裁判ではなく話し合いにより有明海再生を図っていく方向性に賛同していただければ、話し合いの場を設ける」となっています。裁判をこれ以上起こさないことを条件に挙げ漁業者側をけん制している形です。
さらに、3日の会見では「歩み寄るお気持ちがあれば国としてもその話し合いには関与したい」とも述べ、漁業者側に譲歩を求めました。
その一方で、談話には「2017年の談話の趣旨を踏まえる」とも記されていて、話し合うとしながらも国としては、開門せずに100億円の基金による和解を目指すという前提は変えていません。
これに対し、漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長はサガテレビの取材に「我々が譲るべき部分は何もない。国が態度を変えない限り話し合いが実現することはない」と明言しています。
加えて、今シーズンのノリの記録的不作などを新たな主張に今後も有明海再生の訴えを続けていくとしています。

【キャスター】
そもそも、“話し合い”で解決しようという動きになるのは初めてのことではありませんよね。

【中溝記者】
漁業者側としてはこれまでも“前提条件なしに話し合いをしましょう”と訴え続けてきました。一方、国は開門しないことが前提で“100億円の基金で解決を”という考えを曲げません。
和解協議はこれまで2回、長崎地裁と福岡高裁で行われましたが、いずれも開門しないことが前提だったために決裂しました。一方、福岡高裁は前提を作らない和解協議を提案しましたが、「開門の余地を残した協議の席にはつけない」として国が応じませんでした。

解説主幹の宮原さんです。

【宮原解説主幹】
2つの問題点を指摘したいと思います。
1つは司法の問題です。さきほど中溝記者も指摘したように、これまで裁判所としては、何度も和解に向けたレールを敷こうとしてきました。
ただ、結果として、「確定判決を守りましょう」という、司法が決めたシステムを、破った側を司法が守った、という本末転倒の結果になってしまった。
国民の司法へのあきらめ、信頼感の低下にもつながりかねません。
もう1点は、農水省の使命とは何か、という根本的な問いです。農水省は日本の農林水産業を通じて、日本の食、あるいは日本の国土や景観を守るという組織です。ミサイルから国を守る、国防と同じく、国家防衛の最前線です。ところが、過去の裁判を通して農水省は、訴訟テクニックを駆使して、省益や省のメンツを必死に守ってきました。
諫早湾の閉門には決して誤りがないとする、ゆがんだ「絶対的正義感」も、混乱のおおもとにあります。今回、訴訟には勝った農水省ですが、これで使命を果たせたかというと、決してそうではありません。

農水省にはもう一度、霞が関で、ではなく、有明海の風を受けながら、漁業者目線でこの問題を考えていただきたいと思っています。
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