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2019.12.04

「政治家と教養と哲学と」ー宮原 拓也コラムー

政治がふわふわしている。「桜を見る会」の一連の騒動に触れ、そんな言葉が浮かんだ。野党が求める招待者名簿は、何と批判当日にシュレッダーにかけられていた。官邸とお役所がタッグを組んだ絶妙のマジックである。ファンを集めて、ツアー旅行を募り、パーティーで接待する。人気も芸もないタレントか、下心たっぷりの詐欺師の所業で、天下国家を論じるべき政治家のやることではない。

この15年ほど新聞のスクラップを続けている。この「桜」問題を機に、過去の記事をパラパラとめくって、政治家の記事を探した。

首相経験者で言えば、「庶民宰相」田中角栄の記事が最も多かった。彼の残した偉業は省くが、「政治とは生活である」が持論で、平和主義者でもある人情家だった。今も人気は衰えていない。

個人的に最も好きな政治家は、「切れ者」「らつ腕」で知られたカミソリ後藤田こと、元官房長官、副総理の後藤田正晴(1914~2005)。「政治は美学ではない。徹頭徹尾、実学である」の言葉に付けた赤いマーカーはもう薄くなっている。

同時代に法相、文部相、厚生相、防衛庁長官を歴任した坂田道太(1916~2004)も味がある政治家だった。マル眼鏡を掛けた学者然とした風貌で、東大独文科卒の教養人だった。今の政治家にこの手の教養人は見当たらない。

まだご健在だが、亀井静香氏(83)も強烈な個性でキラリと光る。朝日新聞のインタビューに答えた「権力は男性を女性にし、女性を男性にする以外なら、何でもできる」の言葉が印象的だった。政治家に必要なのは、使命感と覚悟だとも答えている。なるほど、権力者だから桜問題など朝飯前なはずだ。

1980年代に首相を務めた中曽根康弘氏が11月29日、一世紀を超える人生の幕を閉じた。東大法学部卒の秀才で、死ぬまで勉強家だったことは広く知られている。4年前に死去したドイツの元大統領・ワイツゼッカーとは、哲学者カント談義をした、と毎日新聞のコラムニストが書いていた。ワイツゼッカーは敗戦40周年の演説で「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目になる」との名言を残している。

4年前の毎日のコラムから、中曽根の言葉を引く。

「(政治家に)歴史的思考というものがなくなったんだ。現実的な、明日をどうするっていうのはあるが、哲学を背景にした深い思索を持ったものがないですね」

歴史観、教養、哲学…。花見でチャラチャラしている政治家諸兄に、胸に刻んでいただきたい。

 

サガテレビ解説主幹:宮原拓也

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