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2019.03.11

デスクのつぶやき 東日本大震災編 第2話「いまが放送記者としての使命果たすときだ」

まるでトランポリンの上にいるようだった。そのうち、立っていられなくなり、膝をついた。周りを見ると、鉄筋でできた4階建ての職員駐車場が大きく横揺れし、駐車中の車が飛び出さんばかりだった。まるで、海中でゆれる昆布のように、鉄筋が波打っている。

また、目的地の旅行代理店が入る県開発公社ビルのガラス張りの外壁がまるでビニール製のように、こちらも激しく波打っていた。

すくなくとも震度5か、それ以上だ、と思った。しかし、私が以前取材した某大学の「偉い先生」は「茨城では古文書で振り返る限りここ1500年、震度5以上の地震はないので、関東沖の地震があった場合は被災するというより、支援するということを考えてください」と言っていたことを思い出した。

だが、現実には体験したことがない、大きな揺れであちこちから、女性の悲鳴も聞こえている。大学の先生の言葉はすぐに消え「インタビューとらなきゃ」とあたりを見渡した。不謹慎かもしれないが、記者とはそういう生き物だ。県庁に向かって駆け出しながら、先ほどの地震のレポートは言葉にまとまりがなかったなあ、とか、声もうわずっていたな、と思った。また、そう思う自分に、「意外と冷静だな」とも感じた。

数秒で県庁の中庭に到着すると、大勢の人が避難しており、地面に座り込んでいる女性にインタビューをとった。取材を終えると、すぐそこにある県警察本部に向かった。県警なら各警察署からすばやく情報を吸い上げ、取材もできるはずだ。ざっと見、県庁周辺では大きな被害はないが、これだけ大きい地震だから死者が出ている可能性があると思っていた。県警察本部に行くと、正面玄関の上部にあった大きなガラスが割れて垂れ下り、続々と警察官も建物から避難していた。県警察本部の正面玄関の自動扉も半開きのままとまっており、そこをすり抜け受付をはいってすぐのところにある県警記者クラブに向かった。いつもぶら下げている記者証を警察官にみせたが、誰も見なかった。吹き抜けの上にあるガラス製の屋根がくずれないかと、みな上ばかりをみていた。

私は記者クラブの電話に飛びついたが、うんともすんとも言わない。停電していることにも気づいたのであきらめて表へ向かうと、また大きな余震が起こった。

県警察本部の玄関前では、パソコンを持って避難している通信社の若手記者2人がいるのが目に入った。彼女らに近寄り「震度情報がないんだけど、なにか入っている」と聞いたところ

そのうちのひとりが、「仙台では7が出ているらしいです」と教えてくれた。私は耳を疑った。

「阪神淡路大震災クラスが起こっている。仙台は相当建物が倒壊しているかもしれない」

そう思いつつ、私は会社の携帯電話に手を伸ばした。被害情報は得られなかったが、ともかくこの現状をラジオで伝えなければ。いまが、ラジオ記者としての使命を果たす時だ。

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